2021年1月18日

B面に恋をして

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レコードで音楽を聴いていた時は、A面が終わるとレコードをひっくり返し、B面を再生するという動作が必要だった。ちゃんと音楽に向き合って聴いていると、このアルバム片面分、約20分の時間は張り詰めた緊張を解きほぐすのにちょうど良いタイミングで、ちょっとした小休止のような役割を果たしてくれたような気がする。
 
アーティストがアルバムを制作する際は、そのことを意識してA面とB面でイメージを変えることも多かった。例えば、ビートルズの「アビー・ロード」は、A面の最後は重々しいギターのリフが後半に長々と続く「I Want You」で締められると、B面は一転、さわやかなアルペジオとともに、「Here Come The Sun」がはじまり、そして後半の怒涛のようなメドレーへ続いていく。CDで聴いていて、「I Want You」の後に、すぐに「Here Come The Sun」が続くとやっぱりちょっとした違和感を感じる。牛のジャケットが有名なピンク・フロイドの「原子心母」は、A面に23分もある大作を1曲、そしてB面にはバンドメンバーそれぞれが書き下ろした小品3曲に加え、共作を1曲収録。これはA面、B面があるからこその構成だった。
 
僕がCDプレイヤーを手に入れたのは、たしか高校3年生の時だったけれど、普段はカセットテープに録音して聴くことが多かったので、A面、B面という概念はレコードがなくなってからもしばらくは残っていたような気がする。「A面の最後の曲が好きなんだよね」なんて風に話をすることはよくあったし、ミックステープを作る時には、B面の1曲目はけっこう大事なだった。
 
シングルレコードは、A面とB面との違いがより明確だった。A面はメインタイトルとしてヒットを狙った作品が収録され、B面はオマケのような扱いをされることが多かった。CDになってからも、正式にはタイトル曲とカップリング曲と言われていたけど、普通はみんなA面の曲、B面の曲と呼んでいた。
 
B面では、オマケであるがゆえにミュージシャンは肩の力を抜いて自由なスタンスで曲を収録できるということもあって、それが功を奏し、時にはA面を凌駕するような名曲や、ミュージシャンの新しい可能性を引き出すような曲が生まれることがあった。

例えば、ストーン・ローゼズは、B面の曲にも名曲が多かったけれど、A面の曲をそのまま逆回転で収録するような、ふざけた曲もあった。でも、その後アルバムには、別の逆回転した曲にボーカルトラックだけ差し替えて、美しい曲に仕立て、その実験を昇華していたりする。ミュージシャンがお気に入りの曲をカバーするのもB面の定番で、いかにもという感じのカバーソングから、意外性のある曲もあったりして、これもファン心をくすぐった。
 
今では、リマスター盤のボーナストラックやB面集、さらにはネットや配信で簡単にこれらの曲を聴くことができるけど、昔はA面の曲は手持ちのアルバムに入っているのに、B面の曲が聴きたいがためにシングルを買うなんてこともあった。
 
シングルのB面曲について調べてみると、面白いエピソードを見つけることができる。例えば、ロックンロールの元祖とも言われるビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は、もともと1954年にB面曲としてリリースされた。その後、映画「暴力教室」に使用されたことでヒットし、ロックを世界に広めた名曲として今でも聴かれている。
 
日本でも最初B面としてリリースした曲がA面よりヒットしたということがけっこうあったようで、「学生街の喫茶店」、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」、「スーダラ節」、「ラヴ・イズ・オーヴァー」「Sweet Memories」などは、最初はB面の曲としてリリースされたとのこと。B面の想定外の曲が、人の心を捉えて世の中に受け入れられA面よりも愛されていくというのは、インディーズがメジャーを凌駕していくようで楽しい。
 
どちらかと言えば、大通りより裏通り、陽より陰、メジャーよりインディーズに心を惹かれてしまいがちな僕は、B面にもまた強いシンパシーを抱いてしまう。
 
話は変わるけど、アメリカは大変な状況になっていますね。いろいろあるけど、やっぱり音楽や映画、文学などアメリカの文化に大きな影響を受け、今でも憧れを抱く身としては、本来あるべき姿に収まるのを願わずにはいられません。1978年にリリースされたエルビス・コステロのこの曲が今こそ心に響きます。
 
(What's So Funny 'Bout) Peace, Love and Understanding?
平和と愛、理解し合うことの何がおかしいんだ?
  
ちなみにこの曲も当初、シングルB面の曲としてリリースされている。
 
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