2021年2月15日

Nomadland

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経済格差が広がっているアメリカでは、家賃の高騰、倒産、失職、離婚などによる経済的な理由で住む家を失い、低賃金の季節労働をしながらキャンピングカーで暮らすワーキャンパーという人が増えているという。『ノマド:漂流する高齢労働者たち』は、その中でも特に高齢者のワーキャンパーの生活をレポートしている。
 
60代、70代の高齢者の人たちが、少ない公的年金では暮らしを維持できずにドロップアウトするように家を捨て、キャンピングカーでの暮らしをはじめる。そしてわずかな収入を得るため、短期の肉体労働を行いながら暮らしていく。

ワーキャンパーの仕事の代表格が全米各地にあるアマゾンの巨大倉庫での出荷作業。売上が極端に上昇する感謝祭からクリスマスは、大量の雇用が必要となるため、キャンピングカー用の駐車場を用意し、そこで生活できるようにしてワーキャンパーを募集しているそうだ。ただこの仕事は、ロボットの指示で時間に追われながらスキャンを繰り返すような単純作業であるのとあわせて、荷物を運ぶため1日に20キロ以上歩いたり、1000回以上腰をかがめたりしながら10時間以上働かなければならない過酷な肉体労働でもある。痛み止めを飲んで筋肉痛をごまかしながら仕事を続け、短期労働の期間が終わる頃には関節炎や腱鞘炎でしばらく動けなくなってしまう人も多いとのこと。それでも全米各地にあるアマゾンの倉庫では、仕事を求め。多くの60代、70代の高齢者の方が集まってくる。
 
アマゾンの他に、農園での収穫、キャンプ場の管理作業、アミューズメントパークのスタッフなどの季節労働の仕事があるが、そのほとんどは高齢者にはきつい肉体労働だ。

この本が面白いは、高齢ワーキャンパーの現状とともに公共福祉の不足や劣悪な労働環境などの問題提起をしながら、同時に彼らが自らをノマドと呼び、自由な生活をポジティブに楽しんでいる姿を伝えてくれるところだ。

そのひとり、リンダさん(64歳)は、同居をしていた娘夫婦が家賃の高騰で狭い家に引っ越さなければならなくなったのを機に、キャンピングカーを手に入れノマド生活をはじめる。その始まりは不安よりも高揚感に満ちている。経済的に追い詰められたことがそのきっかけだけど、キャンピングカーに乗ってハンドルを握ることで、長年縛られ続けていたローンや会社、同居家族への気遣いなどさまざまなしがらみから解き放たれて、アメリカの広大な大地を自由に旅しながら暮らすという新しい人生を手に入れる。家にこもって静かに過ごすという余生を失った代わりに、かつて憧れたアメリカ人の原点のようなフロンティアスピリットを体現するような生活を期待とともに迎えるのだ。
 
ネットやSNSによって独自のネットワークがうまれ、例えば、キャンピングカーの改造アイデアから、どこのウォルマートの駐車場がキャンピングカーに優しいか、など実利的な情報が共有され、さらにノマド同士の交流会のようなイベントが行われたり、車の修理代をカンパによって捻出したりする助け合いがあったりするという。
 
もちろん、こういった高齢ワーキャンパーが増えていくような社会情勢を肯定することはできない。でもそんな逆境に嘆くのでなく、新しい人生に果敢に立ち向かい、そこから楽しみを見出していく彼らの前向きな姿に、パワーをもらったような気分になった。旅が好きな人なら誰だって、そんな生活に憧れるだろうし、自分だっていつかそんな生活ができたらという夢を持っている。2021年から風の時代がはじまるというし、マインドはいつでも旅立てるノマドでありたいな。
 
リンダさんは、ノマド生活を続けるなかで、廃品を利用して作られる自給自足エネルギーの家、アースシップを作るという新しい夢を見つける。そしてアマゾンの短期労働の仕事をしながら、アリゾナ州の砂漠地帯に土地を手に入れ、夢の実現へと確実に進んでいく。すごいなあ。
 
3月にはこの本が原作となっている映画『ノマドランド』も公開されるそうで、これも楽しみ。
 
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