2021年3月15日

10年と15年

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先週、鎌倉に行く機会があり、久しぶりに海を見た。
 
空は雲に覆われていたけれど、春を感じさせる暖かい一日で、静かな海では何人かのサーファーがぷかぷかと浮かんで波を待っていた。しばらくぼーっとしながら、不規則に繰り返す波の動きを眺めていると、10年前に東北を襲った恐ろしい津波のことを思い出した。
 
東日本大震災から10年ということで、テレビやラジオでは被災地の今を伝えている。「10年だからと言って、特別大きな変化があるわけじゃないし、これまでと同じ通過点の一つに過ぎない。まだ何も終わっちゃいない」表現は少し違うかもしれないけれど、そんな意味のことを話す福島の方の言葉が印象的だった。
 
震災から数ヶ月経った後に仙台を訪れた時、少なからず馴染みのあった場所が、津波によってその面影すらなくなってしまうくらい破壊されてしまった姿を見たけれど、その後、あの場所はきれいに整地されたまま、住む人もなく空き地のようになっている。福島の原子力発電所は10年経ってもいまだに廃炉に向けての目処がたっていない。
 
震災のあった日、僕らはまもなく迎えるトラベラーズノート5周年アイテムの発売に向けて最後の準備を進めていた。その後、予定していた発売日を遅らせて無事出荷することはできたけれど、こんな状況の中で、ノートをカスタマイズしたり、ノートに何かを書いたりすることにどんな意味があるのだろうか、と考え悩んだ。
 
その時になんとか導き出した答えは、これまでと同じように自分たちが心からワクワクできるようなモノをとにかく真摯に作り続けるということだった。そして、そのことに共感してくれる方に誠実に向かい合うことこそ、僕らがささやかながらも世界に前向きな変化を与えることができる方法で、どんな時だろうが、僕らには結局それしかできないということを思い知った。
 
毎年、3月11日になると東日本大震災のことが報道されるけど、震災の記憶とあわせて、あの時、自分たちが作るモノの意味や意義について思い悩んだことを思い出す。10年という節目の年をコロナ禍の中で迎える今年はよりそのことについて考えさせれたような気がする。
 
東日本大震災から10年ということは、15年前の3月に発売されたトラベラーズノートは、同時にこの3月で15周年ということにもなる。今まで、5周年、10周年のタイミングでそれぞれの周年をテーマにした商品をリリースしてきたけれど、今月発売する新しい商品にはその言葉を使わなかった。
 
そこには深い意味はないのだけど、なんとなく15周年をテーマにするのは安直なような気がして違うかな、と思ったのだ。ただそうやって作ったB-Sides & Raritiesは、思いがけずトラベラーズノートを最初に作った時のような、まさにトラベラーズの王道をいくやり方でできあがっていった。
 
ターゲットとかマーケティング戦略とかではなく、自分たちが好きでワクワクできるという一点でテーマを決め、想像力とともにその世界を深掘り、広げていき、みんなの創意工夫とともにプロダクトとして作り上げていく。それは15年前にトラベラーズノートを作った時に発見したトラベラーズらしいものづくりのやり方だ。
 
この15年で、東日本大震災があったり、スマホにSNSやサブスクリプションが生まれたり、グローバリズム進むほどナショナリズムが強まり、温暖化による気候変動も進み災害も増え、さらに新型コロナウィルスが世界中を襲ったり、AIやネットの力でそれらに対応しようとしていたり、想像すらできない変化が現在進行形で進んでいる。好むとも好まざるとも、それらの変化は僕らの生活に大きな影響を与えているし、自分の考え方を変える必要に迫られることも多い。つまるところ僕らは、便利さと引き換えにより多くのストレスを背負うようになった気がする。
 
だけど、人がワクワクしたり、感動したりすることの源流は変わらないと思っている。僕は10代の頃聴いて心震わせたロックンロールに50代になっても同じように心を震わせている。10代の時はラジオやレコードで聴いていたのが、今はスマホに入ったサブスクのアプリで聴くこともあるけれど、その変化に大きな意味はない。
 
だって、僕が感動しているのは、ミュージシャンのリアルな声であり、魂がこもったギターのチョーキングで、心臓の鼓動のようなリズムで、さらにそれらがバンっと一塊になって心に届くことで、世界が変わったような気がしたロックンロールそのものなのだ。
 
僕らはまず感動の源流に向き合うことをなによりも大切にしていきたいと考えてきたし、どんなにテクノロジーが進化しても、流行り廃りが変わっても、僕らにとっての感動の源流はなにも変わらないと信じている。
 
こんなことを言うと、世の中の変化に抗う、あまのじゃくみたいだけど、今この時代に、革のノートなんていうアナログの極地みたいなものを、こんな風に思い入れをこめて作り続けること自体が、時代や世の中に抗うことかもしれない。最近、そんなことを思ったりもする。
 
そんな仕事を15年続けてこれたのは、たくさんの思い入れとともにトラベラーズノートを使ってくれている皆さまもおかげです。心から感謝しています。ありがとうございます!
 
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