2021年3月 1日

B-Sides & Rarities Vo.1

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まず、いくつかのリフィルの試作サンプルがあった。トラベラーズノートの発売以来、ちょっとした思いつきや、面白い紙との出会いがあった時に作っておいたサンプルだ。さらに途中で頓挫してしまった企画のために温めていたリフィルのアイデアもあった。同時にそれらは、定番リフィルのライアップを追加検討する際に、いつも候補に上がるのに落選し続けてきたサンプルやアイデアでもあった。
 
用途がニッチすぎたり、わかりにくかったり、他のリフィルとのバランスだったり、コストや生産上ちょっとした問題を抱えていたり、そもそもそれってノートとは言えないんじゃないの? というようなことまで、定番になれなかった理由は、さまざまだったけど、なぜか諦めきれず、追加検討の時にはいつもドラフト対象選手のように候補に上がりながら、結局指名を受けることはなかった。
 
だけど、そんなドラフト外のようなリフィルをまとめて並べてみると、今まで思いもよらなかったトラベラーズノートの使い方を教えてくれそうだし、映画『がんばれ!ベアーズ』のような個性派の落ちこぼれ集団が放つオーラみたいなものを感じた。
 
野球だったらドカベンに例えてもいいかもしれない。悪球はホームランにするけどストライクゾーンは空振りする岩鬼に、最高のバッティングセンスを持ちながら鈍足の山田、エースなのに肩が弱い里中、ピアノと野球を掛け持ちしてどっちつかずの殿馬、主要キャラクターなのにほとんど活躍しない微笑。
 
そんなわかりやすい欠点と長所があるがゆえに魅力的な明訓高校野球部のメンバーのような輝きを、並んだリフィルのサンプルから感じたのだ(ドカベン プロ野球編では、みんなちゃんとドラフト指名されているけれど)。
 
さらに「だったらこんなリフィルもいいかも」と、新しいリフィルのアイデアもでてきた。「よし、次はこれでいこう」先週公式サイトにアップしたトラベラーズノートの新しいラインアップはこんな風にして決まった。
 
タイトルの「B-Sides & Rarities」は、完全に後付けで考えたものだった。だけど今回のラインアップが生まれる成り立ちを端的に表していると思うし、このタイトルであれば、今回のリフィルの中にノートとしての本筋を外しているものや、実験的なものがあることもちゃんと筋が通るし、ポジティブに捉えられるようになった。
 
なにより、トラベラーズノート自体が、シングルのB面のように余計なことを気にせず個人的な表現を実験できる場であるし、B面によくある憧れの曲をカバーするように、自分の好きなものを描いたりする場でもある。
 
表通りよりも路地裏にシンパシーを抱き、メジャーよりもインディーズでありたいと願うトラベラーズノートにぴったりだと思った。それになんといっても、このタイトルだったら大好きなロックやレコードの要素をプロダクトに盛り込むことができる。旅とロックなんて最高じゃないか(さんざん野球に例えていたけれど、野球よりロックの方が好きなのです)。

タイトルが決まると、早速橋本がレコード盤を模したかっこいいロゴをデザインした。さらに「パッケージにはレコードの国内盤みたいな帯をつけようと思う」とか、「表紙はアルバムのジャケットみたいにしたいね」と言いながらデザインのイメージが広がっていった。
 
表紙のイラストには、さりげなく僕の個人的なロック愛を盛り込んだ。こんなことを説明するのは野暮かもしれないけど、リフィル耐洗紙はソニック・ユースの『ウォッシング・マシーン』、シール台紙は『ベルベット・アンダーグラウンド&ニコ』、ジャバラはピストルズの『勝手にしやがれ』、メッセージカードはピンクフロイド『原子心母』へのオマージュとして描いた。どれも音楽はもちろんジャケットのアートワークも素晴らしい昔から大好きなアルバムだ。
 
例えば『ベルベットアンダーグラウンド&ニコ』は、手に入れた時、シンプルでインパクトがあって、前衛的で実験的で妖しく色気がありながら、ポップで知性と品があり、バンドが持つイメージを端的に表す最高のジャケットだと思った。このアルバムから、彼らの音楽はもちろん、ジャケットをデザインしたアンディウォーホールにも興味を持ち、モダンアートの世界への扉を開けるきっかけにもなった。
 
手元のCDのジャケットは、35年経ってすっかり色あせてバナナの色は黄色からほとんど白に変わってしまったけれど、その月日の分だけ影響も受けたし、思い出もたくさん詰まっている。
 
『勝手にしやがれ』は、高校生だった僕にパンクロックを衝撃とともに教えてくれたアルバム。いまだに「ノーフューチャー」と口ずさみながらこのアルバムを聴いて、心を奮い立たせる時もある。『ウォッシング・マシーン』も『原子心母』も個人的な影響も思い入れがたっぷりある大切なアルバムだ。
僕の価値観を作り、辛い時を救ってくれたこれらのアルバムへのオマージュをトラベラーズノートのラインアップに盛り込めただけでも大満足だった。
 
サンプルができあがり、レギュラーサイズとパスポートサイズが並んだ姿を見た時は、レコードとCDが並んでいるみたいだと思った。これらのリフィルに、みなさんの記憶が刻まれ、それぞれの生活に中で生まれる新たな実験や、好きなことが記されていったら嬉しいです。
 
そんなわけで、B-Sides & Rarites コレクションは、現在、流山工場を中心に鋭意生産中です。このリフィルたちは、工場にとってもなかなかくせもの揃いが多く、みんな苦労をしています。その話はまた後日。

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