2021年5月24日

from Narita Airport

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先週、久しぶりに成田空港へ行ってきた。電車は、空港が近づくほどに乗客もまばらになり、スーツケースを持つ人もほとんどいない。成田空港に着き、出発ロビーへ出ると想像通りチェックインカウンターはがらがらで掲示板に表示されたフライトスケジュールには半分以上に欠航の文字が記されていた。それでもバンコクやソウルなどいくつかの便は運行していて、チェックインカウンターに並ぶ旅人の姿もないわけではない。
ただ、その表情にはちょっとした緊張があり、旅の高揚感は感じられなかった。

トラベラーズファクトリーエアポートがある、ショップエリアに着く。ほとんどの店は休業中だったり、すでに撤退していたりして、以前の活気はない。僕は先に来ていたスタッフに「おはよう」と声をかけると、店内に入って天井を見上げた。

空調などの配管がむき出しになった天井は、店の外の天井よりも高くなっていてそこだけ独立した空間のような感覚を抱くことができる。天井からは、香港の古い自転車や地球儀、宇宙戦艦ヤマトの模型などが吊るされ、手が届かない位置に取り付けられた棚には古本やレコードに手書きの看板、ノートなど思い入れたっぷりのガラクタがが並んでいる。

場所は、例えばどこか異国の寂れたロードサイド、もしかしたら銀河鉄道999の停車駅があるような地球以外の星のどこかかもしれない。そんな場所にひっそり佇む、腕の良い職人気質の整備士が営む古いガレージのようなイメージだ。旅の途中で、走り続けてぼろぼろになった車やハン・ソロのファルコン号みたいな宇宙船を修理してくれたり、ゴルゴ13が仕事前に立ち寄り道具を調達するように、それぞれの旅に必要な道具を揃えてくれる場所。店内に入り、天井を見上げることでそんな雰囲気を感じて欲しいと思って作った。それが成功しているかどうかは分からないけど、僕はこのトラベラーズファクトリーエアポートの天井を見上げた風景が好きだ。

この日、この場所に来たのは、休業が続く中で何かできないかと考え、トラベラーズファクトリーエアポートやその商品を紹介する動画を撮影するためだった(詳細は6月にお知らせできると思いますので、楽しみにしてお待ちいただけたら嬉しいです)。

撮影の途中、展望デッキに向かった。飛び立つ飛行機はカーゴ便が多かったけれどそれでもゴーっという音を立てながら、飛行機が離陸していく姿を眺めていると、ふっと旅の誘惑に心が包まれていった。
夕方になると、空港はますます物寂しい空気に包まれた。ほとんど人がいないチェックインカウンターにフライトスケジュールが表示される電光掲示板もほとんど空欄。その横にある大型ディスプレイに流れる東京オリンピックのキャラクラーによるアニメーションが空虚感をさらに募らせた。その風景は、エドワード・ホッパーが描く旅の絵を思い出させた。

都会の夜の人気の少ないダイナーを描いた『ナイトホークス』や、夕暮れ時の田舎のガソリンスタンドを描いた『ガス・ステーション』などは、寂寥とした旅の孤独を感じさるけれど、同時に自由を感じさせ想像力を喚起してくれる。静かな空港を眺めながら、以前の賑やかで旅の高揚感に満ちた人たちで溢れていた時を思い出し、同時にコロナ禍が終焉し、またその風景が戻ってきた時のことを想像した。きっとその時は、長い間栓を抜かずにいたワインが熟成していくように、旅の味わいや喜び、その意義も以前よりずっと深まるのかもしれないな。

トラベラーズファクトリーエアポートでもうひとつ好きな風景が、店内から見た、チェックインカウンターの方に向かう出口の風景だ。周りを商品やガラクタのような装飾物に囲まれた出口(入口でもあるのだけど)を進むと、出国のためのセキュリティーチェックがある。

これから世界のどこかへ旅立とうとする人がいる。そこは長年夢に抱いた念願の場所かもしれないし、人生をかけた仕事のための旅かもしれない。異国で暮らす恋人にやっと会えるのかもしれない。
そんな旅人たちが、旅のはじまりの直前にトラベラーズファクトリーに立ち寄り、最後の旅の準備のためのひとときを過ごし、旅を始めるためにこの出口を抜けていく。この風景を眺めていると、そんなシーンが頭に浮かんでくるのだ。

もう少し時間はかかるかもしれないけど、きっとまた以前のように海外への旅ができる日が必ずやってくるはずだと信じています。その時はぜひトラベラーズファクトリーエアポートにお立ち寄りください。

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