2021年5月10日

ゲームセンターの思い出

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東京オリンピックは、すっかり不穏のタネとなってしまっているけれど、オリンピックというと僕は昔ゲームセンターにあったハイパーオリンピックというゲームを思い出す。

僕が小学校の高学年から中学生の頃は、まさにゲームセンター興隆期といえるような時代だった。インベーダーゲームからはじまり、パックマンにラリーX、ドンキーコングディグダグ、クレイジークライマーなどテクノロジーの進化と革新的なアイデアが融合し、面白いゲームが次々と登場していた。例えるならビートルズが登場し、ストーンズやフーも人気を博していき、さらにハードロックやグラムロック、プログレなどまで急速に発展し、その世界を広げていった60年代後半におけるロックミュージック興隆期の状況に似ていたのかもしれない(実際に体験した訳じゃないけど)。
 
だけど当時ゲームセンターに行くことは学校で禁止されていて、たまに先生が見回りに来ることもあったため、僕らはおおっぴらにそこに立ち入ることができなかった。その頃ゲーム人気に乗じて近所の駄菓子屋にもゲーム機を数台置いていた。駄菓子屋には最新のゲームはなかったけど、先生が見回りに来ることもなかったので、僕らは学校帰りに立ち寄り、不本意ながらも、もう何度もやり込んでいるゲームを飽きずに繰り返しやっていた。

そんなある日、お兄さんの影響で最新情報通の友人Kくんが「ハイパーオリンピックってゲーム知ってる?」と声をかけてきた。ハイパーオリンピックは、ボタンを連打して100メートル競走や走幅跳などの陸上競技を行うゲームだった。ボタンを押す速さがそのままランナーが走るスピードになるというシンプルかつ斬新な操作方法に加え、陸上競技という身近なスポーツをテーマにしているのも新しい。ロサンゼルス・オリンピックを翌年に控え、カール・ルイスが注目を集めていたこともあり、僕らはすぐにこのゲームに熱中した。
 
最新ゲームのハイパーオリンピックは、当然いつもの駄菓子屋にはなかったため、このゲームをやるには、ゲームセンターへ行かなければならなかった。先生の見回りには一定の周期があった。その頃、みんなゲームセンターに行くのを控えていたこともあり、先生もすっかり安心し見回りを休止していた時期だった。
 
ハイパーオリンピックにすっかりはまった僕らは、いかに早く連打するかを研究した。最初は爪でこするようにボタンを押すと早くなるということを発見。だけど爪が削れて痛くなるため今度は10円玉を使ってこするようにボタンを押していた。
 
ある日、Kくんが「これがいいらしい」とステンレス製の15センチ定規を学校に持ってきた。定規の端を指で押さえて、その逆をはじくとブルンと定規が振動する。その振動でボタンを押すのだ。「こうすると世界記録も超えるらしいよ」と続けた。
 
インターネットはまだ陰も形もなかった時代、こういった情報は学校も地区も超えて、自然と口コミで広がっていた。僕もさっそくステンレス定規を買い、Kくんと一緒にゲームセンターへ行った。すると爪やコインなどとはレベルが違って、その効果は絶大であっという間に100メートルの世界記録を叩き出すことができた。

その後、しばらく続いたゲームセンター通いを中断することになったのは、先生ではなく母親に見つかったのがきっかけだった。ゲームセンターの前に止めてあった僕の自転車を見つけると、母親はずかずかと中に入ってきて、「こういうところに来ちゃ、ダメなんじゃなの。すぐ帰りなさい」と僕に言い放った。一緒にいた友人の手前もあり、きまりが悪くなった僕は「ちょっと寄っただけだよ」とふてくされ気味に呟きながらゲームセンターを出た。家に帰ると「お父さんには黙っているから、もう行っちゃだめだからね」と念を押された。なんだか秘密を握られたようできまりが悪くなった僕はその後しばらくはゲームセンターに行くのを控えるようになった。
 
それから数ヶ月後、家族で外食した後に弟がゲームセンターに寄りたいとねだった。酔っ払って機嫌が良くなっていた父親は、たまにはいいだろうと言ってみんなで入っていった。僕は母親に見つかった件もあったから、あんまり乗り気にもなれず、それほど興味もないゲームを1回だけやって、すぐ終わってしまった。すると父親がゲームのことをよくわからないのに「ずいぶうまいんじゃないか」と冷やかし気味に言った。その瞬間、父親は知っていたんだなと悟った。
 
お父さんには黙っている、と言っていたのに、僕が眠りについた夜、両親が茶の間でそのことを話している姿がふと頭に浮かんできて、僕は一瞬血の気が引いたようになったのと同時に、やっぱり大人は嘘つきだと、子供心に憤慨した。だけど、どちらかと言えばこまっしゃくれた子供だった僕は、「大人同士では情報は筒抜けだし、知っていても知らない素振りをすることもある」という、今思えば当たり前の大人の教訓を一つ学んだ気になったのも覚えている。
 
そのことと関係あるかどうかわからないけど、あれほど熱を上げていたハイパーオリンピックもそろそろ飽きてきた頃だったし、それとあわせてゲーム以外のことへの興味も広がり、その後ゲームセンターにほとんど行かなくなっていった。
 
話は変わるけど、東京と京都でも緊急事態宣言の延長が決まった。オリンピックは今のところ開催する予定らしい。やっぱりいろいろな問題を知らない素振りでやり過ごそうとする人たちはたくさんいるようだ。東京オリンピックはもういっそのことネットを使ってハイパーオリンピックで開催なんてどうだろう。もちろん冗談だけど。
 
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