2021年7月26日

夏が来て

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夏が来て僕は、オリンピックなんて見ないで都内の安ホテルの部屋で、9月に発行されるトラベラーズタイムズの原稿を書いていた。正直に言うと、わざわざホテルの部屋にこもる必要があったわけではまったくないのだけど、4連休ということで、大浴場付きのホテルに泊まり、文豪ごっこみたいなことをしてみたかったのだ。

原稿のテーマは、トラベラーズノートの15周年。ぼんやり頭に浮かんでは消える言葉の断片を下手な金魚すくいのように薄紙を破りながら、なんとかとらえて、何度も削ったり、足したりを繰り返して書き直し、煮詰まったら大浴場で気分転換をして、どうにか最近もやもやと頭に渦巻いていたことを文章としてまとめることができた(ような気がする)。
 
読んだ人がどう思ってくれるのか分からないし、おもしろいかどうかもよく分からないけれど、自分としては15周年のメッセージとして、納得したものが書けたと思っている。まだ少しだけしっくりと来てないところがあるけど、ここまで書けたらもう大丈夫。2、3日寝かせて修正したら完成できると思う。
  
無事任務を果たし、さてどうしようかと考えていたら、世田谷文学館で『安西水丸展』が開催されているのを思い出した。さっそくホテルをチェックアウトすると、自転車に乗って会場まで向かった。炎天下の猛暑の中で1時間以上自転車で走り、へとへとになって会場に着くと、まずはエアコンの効いた併設のカフェでアイスコーヒーを飲んで休む。
 
「ほんと気をつけないと熱中症になっちゃうな。オリンピック選手は大変そうだな」そんなことを思いながら、水を何杯もおかわりし、水分補給とクールダウンをして、体調を整えてから展示を見た。

会場にはシルクスクリーンから、本の装丁の原画、漫画の原稿、ポスターまでたくさんの作品が並んでいる。温かく飄々としたイラストを眺めていると、なんだか救われたような気持ちになった。絵葉書サイズくらいに色鉛筆で落書きみたいに描かれたイラストと文章がまざった作品がたくさん展示されていて、こんな風にノートに描けたら素敵だなと思った。
 
展示品の中には、愛用のバッグや万年筆、メガネなどとともに、氏がいつも持ち歩いていたというポケットサイズのノートも展示されていた。取材、日記、スケッチなどさまざまな用途をこの1冊に中に書いているということや、表紙には旅先で手に入れたステッカーを貼っていたり、さらに旅先でスタンプを押したり、押し花を挟んだりして遊んでいる、なんてことが説明されていて、残念ながらトラベラーズノートではないのだけど、ノートの使い方については、とても共感できるところがあって嬉しかった。
 
「魅力ある絵というのはうまいだけではなく、やはりその人にしか描けない絵なんじゃないでしょうか。だからそういう絵を描いていきたいなと思います」
 
「こういうふうに生きたいと思っていることがある。絶景ではなく、車窓のような人間でいたいということだ」
 
イラストなどの作品とあわせて展示されている氏の言葉も含蓄があって、じっくりと読み込みながら、ゆっくり展示を楽しむことができた。
 
世田谷文学館から家まで25キロ。だけど夕方で日差しも穏やかになり、心も体もリフレッシュできて、軽快にペダルを漕ぎながら家まで向かった。家に着くと、ラーメンズファンの娘が、くだんの件でいたく傷ついたようで、家ではしばらくオリンピックやそれに関連するニュースなどをテレビで見ないようにとのこと。特に興味があったわけでないし、まあ、それもいいかな、なんて思った。
 
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