2022年8月 8日

Viva! Sento! Viva! Hammam!

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僕は休日によく銭湯に行く。家に風呂があるのにわざわざ銭湯に行くのは、家にはない大きい湯船やサウナなどを楽しみたいということもあるのだけど、銭湯に行くことで、ちょっとした非日常感、さらに言えば旅気分を味わいたいということもある。旅先で銭湯に行くのも好きで、旅先の場合は逆に銭湯に行くことで、その土地の住民になれたような気分を味わえて、旅の中に日常を感じられるのが嬉しい。
 
銭湯というのは日本独自の文化で、海外で似たような施設を見つけるのは難しい。スパと呼ばれるような施設はよくあるけれど、地元の人が日常的に通うというとちょっと違う。だけどトルコのハマムは、長い歴史を持ち、庶民が日常的に通うというそのあり方も日本の銭湯によく似ている公共のお風呂施設だった。
 
トルコを旅したのは、もう30年以上前の学生時代。イスタンブールを起点に20日ほどかけて黒海沿岸からアンカラを経由しながら地中海沿岸を巡り、最後にまたインスタンブールに戻った。最初にハマムに入ったのは、イスタンブールから東へ200キロほど進んだサフランブルという町でのこと。古い建物が残る小さな古都で、トルコ最大の都市、イスタンブールから着くと、人が少なく静かなことにまずはほっとした。
 
この町では、一人で歩いていると小さな子供が手をひっぱりながら町を案内してくれたり、喫茶店でお茶を飲んでいると、近くに座っていた地元の人が何も言わずにお金を払ってくれたり、都会ではなかなか味わえない旅人に対する優しい振る舞いを何度も体感することができた。
 
夕方のこと、一人で旧市街を歩いていると、小さなモスクのような建物を見つけた。中を覗いてみようとすると、地元のおじさんが手招きするように中に入れと言う。イスタンブールではそんな誘いがあると、警戒心から思わず身構えてしまうことも多かったけれど、この町に来てからそんなこともなくなっていた。
 
僕はよく分からないまま中に入ると、公衆浴場のような場所だということが分かった。ハマムのことは、その旅の唯一の情報源だった地球の歩き方には書いてあって、少しは知っていたような気もするけど、それほど詳しい情報は掲載されていなかったし、当時はインターネットもなかったから、ほとんど何も分からない状態で入ったはずだったと思う。
 
とにかく中に入り、まわりの人の見様見真似で、服を脱ぎ、手渡された大きな腰巻を巻いて浴場に入った。そのハマムはお風呂はなくて、代わりに全体がスチームサウナのように温かくなっている。中央には大理石で作られた小上がりのような場所があって、みんなそこで思い思いに座ったり、寝っ転がったりしながらハマムを楽しんでいた。僕もまたエキゾチックな作りの浴場に心を踊らせながら、ゆっくり体を温めた。
 
壁際には洗い場が用意されていて、そこで汗を流したり、頭を洗ったりする。僕は日本から持ってきていた旅行用の小さな容器に入ったシャンプーとボディーソープをバッグから取り出して浴場に戻った。旅をしたのは2月ごろで、トルコもかなり寒い季節だった。安宿のあまりお湯がでないシャワーで震えながら頭や体を洗っていたこともあって、温かくお湯もたっぷりある快適な場所で、ゆっくり体を洗えるのも嬉しかった。
 
体を洗っていると、隣にいた地元のおじさんがシャンプーを貸してほしい、と話かけてきた。僕はどうぞ、と言うと、彼は嬉しそうにシャンプーを手に取った。そして二人で並んで頭を洗った。浴場を出たら、休憩室でしばらくのんびりするというのも銭湯に似ている。ぼんやり座っていると、さっきシャンプーを貸したおじさんが、お礼にとお茶を奢ってくれた。「やっぱり日本のシャンプーはいいね。トルコのシャンプーはあんまり質がよくないんだよ。だからトルコには髪が薄い人が多いだろ?」と自分の薄くなった頭を指差しながら言った。
 
髪が薄くなることにリアリティを感じるには当時の僕はまだ若かったから(今は違うけど)、あいまいに頷きながらお茶を飲んだ。彼が話すのは、まったく意味の分からないトルコ語と、少ない語彙の英単語をつなぐだけの会話なので、それほど深いコミュニケーションがとれたわけではないけれど、僕は現地の人の日常に触れ合えたような気がして嬉しかった。
 
それからトルコでは街を移動し、ホテルにチェックインすると、まずはその場所を聞くくらいハマムにはまった。黒海沿岸の小さな街ではいかにもローカルという感じのハマムが味わい深かったし、ブルサという温泉地に行くと、プールのような大きな浴槽を備えたハマムがあるということを聞いて、そのためにわざわざ立ち寄ったりもした。いつかまた行ってみたいな。
 
先週末にトラベラーズファクトリーサイトに、「とぅ~あんどふろ」のお風呂道具の情報をアップしたということもあって、旅先でのお風呂のことを書いてみました。ハマムのことを思うと、日本の銭湯も海外から来た旅人にとってはかなり快適で面白い経験ができる場所だと思うし、日本に銭湯があるということが、なんとも誇らしく思う。
Viva! Sento! Viva! Hammam!
 
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