2022年11月14日

ビクトリノックスの思い出

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ビクトリノックスのナイフをはじめて買ったのは、確か中校生の頃だったと思う。小学生の頃から『十五少年漂流記』とか、『ロビンソン・クルーソー』などの冒険小説や、テレビの『川口浩探検隊シリーズ』も大好きで、冒険というものにずっと憧れを抱いていた。それで子供向けに書かれた冒険入門みたいな本を読むと、たいてい必要な道具の中にビクトリノックスのような多機能ナイフが記されていた。それを見てぼんやりと憧れを抱いたのが最初のきっかけかもしれない。

中学生の頃、マッキンリーで消息不明になったのをニュースを見たことで、植村直己のことを知り、その著作を何冊か読んだ。そして、冒険家を職業とする人が今も存在していたことを知った。さらにビーパルなどの雑誌を通じて、C.W. ニコルや野田知佑を知って、彼らの本を読むと、冒険というのは生き方の問題でもあることを知った。
 
それら本の中で、ウェールズだかアラスカでは、子供がある年齢に達すると父親からナイフを渡されそれを手にアウトドアで一夜を明かすという通過儀礼のような習慣があるという話を読んで、すっかり感化された僕は、東京での生活では差し当たり必要ではなかったのに、入れておかないといけないと考えた。

今思えば少年ジャンプの裏表紙の広告を見てメリケンサックやモデルガンを買ってしまう心持ちとそう変わらないような気もするけど、とにかくアメ横に向かって自転車を走らせた。その頃の僕にとってアメ横は、そういった舶来の道具や服が最も豊富に揃い、さらに安く手に入れることができる素晴らしい場所だった。

だけど、その頃のおこずかいから考えると決して安い買い物ではなく、最初は店に入ると、緊張してビクトリノックスの多彩なラインアップをさらっとを眺めるだけで、実際に触れてみることもできずに、小さなパンフレットをもらって帰った。

家に帰るとそのパンフレットを興奮しながら読んだ。ナイフからハサミ、缶切り、ドライバーに加えてノコギリ、ワインオープナーまで何十種類もの機能を備えたチャンピンは燦然と輝いて見えたし、他にも機能が異なるさまざまな種類があって、どれが必要かと考えるのも楽しかったけれど、一番興奮したのはプロの登山家やカメラマンが語る、ビクリノックスのエピソードだった。冬山でこれがあったから死なずにすんだ、なんてことがリアルな体験とともに綴られていて、冒険に憧れをいただいていた中学生の僕はボロボロになるまで何度も読み返した。

ちなみにトラベラーズノート発売時、公式サイトを作る際に、そこにプロフェッショナルユーザーというコーナーを作ったのは、あの頃興奮しながら読んだビクトリノックスのパンフレットの影響だった。

そうやって最初に手に入れたビクトリノックスを夜にひとり部屋で眺めるだけでなく、実際に使う機会ができたのは高校生になって、友達と河原でキャンプをするときだった。これ見よがしに「これ持ってきたから」と颯爽とカバンから出してみたものの、場所は駅から歩いて20分程度の河原だし、食事はコンロでお湯を沸かしただけのカップラーメンだったから、ナイフはもちろん、10種類くらいあったその機能が必要な場面もなかった。だけど、焚き火にくべるために集めた枯木の枝を意味もなく削ることで悦に入っていた。

正直に言えば、栓抜きや缶切りが必要な機会はそれほどないし、ドライバーはサイズがあわないし、大小の2種類あるナイフは使い分けが必要なシーンが思い浮かばない。そんなことを思いながら、改めて手に入れたのが、コンパクトなサイズにナイフとハサミなどに機能をしぼったクラシックSDというモデルだった。

コンパクトなのでキーホルダーに取り付けていつも持ち歩くと、けっこう重宝した。爪やほつれた糸にテープやヒモ、封筒など、突然ふと何かを切る必要に迫られることはけっこうある。そんなときに、小さなハサミやナイフが役にたつ。それに、いつも身につけていることで、今もし無人島に流れ着いてしまったり、誰もいないジャングルに迷い込んでしまっても、これがあればなんとかなるかもしれない、なんていうちょっとした冒険心を満たすこともできる。(本当になんとかなるのかは知らないけど)

とにかく、それ以来、学校に行くときも(ちょっと引かれたこともあったけど)、バックパッカーとしてアジアを旅したときも(けっこう重宝した)。営業で外回りしていたときも、デートをしたときも、まだ小さかった子供と公園に行ったときも、そしてカフェでブログを書いている今も、どこかに行くときは、たいていクラシックSDを身につけている。
 
そんなわけで2015年にビクトリノックスの方と出会い、コラボレーションで最初のトラベラーズバージョンのビクトリノックスを作ることができたときは嬉しかった。最初のコラボレーションモデルは、クラシックSDをベースにした日本企画モデルのTOMOで作った。
 
四角いエッジがあるボディは好きだったけれど、TOMOが廃盤となってしまったことで、2017年にクラシックSDのグリーンをベースに二代目のコラボレーションモデルを作った。こちらにはルー・リードの曲名からWalk On The Wild Side(ワイルドサイドを歩け)とのメッセージをプリントしている。ちなみに僕が持っていた初代のTOMOバージョンは、どこかの空港でうっかりスーツケースに入れ忘れて身につけたままでセキュリティーチェックを通り、検査官に奪われてしまった。皆さまも飛行機に乗る際はくれぐれもお気をつけください。
 
そして今年、ビクトリノックスでボディーカラーがリニューアルするのにあわせてグリーンが廃盤となるということで、三代目のコラボレーションモデルが登場することになった。さらに登場とあわせて、ビクトリノックスの方のご厚意でカスタマイズイベントまで実施してもらう。
 
クラシックSDは、日常の道具として本当に便利に使えるし、何かの拍子に無人島に流れ着いたり、ジャングルに迷い込んでも、それがあることで生き延びることができるかもしれない道具です。さらにイベントではこの機会にしか手にすることができないオリジナルカラーにアレンジができます。ぜひ。
 
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