2022年12月12日

Catch Me In The Air

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最近、リナ・サワヤマというアーティストの曲をよく聴いている。

知らない方のために簡単に説明すると...(なんて偉そうに言うけど、僕もつい最近までまったく知らなかった。聴き始めたころにちょうどぴったりのタイミングで、彼女が表紙のBIG ISSUEを恵比寿駅前で見つけて手に入れたので、その記事を参考すると)彼女は、ロンドンを拠点に世界的に活躍する日本人シンガーソングライターで、5歳のときに両親とともに日本からイギリスに移住。ケンブリッジ大学で政治学を専攻した後、20代後半から本格的に音楽活動を行い、2020年デビューアルバム『SAWAYAMA』をリリースし、世界的な注目を集めた...とのこと。

正直に言えば、僕が積極的に好んで聴くタイプの音楽ではないのだけど、今年9月にリリースしたばかりのセカンドアルバム『Hold The Girl』をあるきっかけで聴いてすっかり気に入り、ここ数日、繰り返し聴いている。

例えば「Catch Me In The Air」という曲がある。ポリスの「見つめてみたい」を思い起こさせるようなじわじわと染み込んでくるポップチューンなんだけど、何度か聴いた後にあらためて歌詞を読みながら聴くと、まずは最初のフレーズから引き込まれた。

「Hey there, little girl, don't you wanna see the world?
 Don't be scared
 ねえ、そこにいる小さな女の子、世界を見てみたくない? 
 怖がらないでね」

うん。いいフレーズだな。トラベラーズノートのメッセージにもぴったりだな。なんて思っていると、続くフレーズにちょっとはっとさせらる。

「Well, hey there, little world are you ready for this girl? 
 Do you dare?
 ほら、そこのちっぽけな世界さん、この女の子を迎える準備はできてる? 
 その覚悟はある?」

ここで言うちっぽけな世界がまるでトラベラーズの世界のような気がして、僕らがこれまで作ってきたノートを使ってくれてる人たちの想いや、トラベラーズファクトリーで働くスタッフをはじめ、関わっている仲間たちの想いを引き受けていく覚悟があるの? と問われているような気分になる。さらに歌詞は次のように続く。

「Only took nine months and a lot of love
 Carried all our dreams and she's ready now
 必要なのはたった9ヶ月とたっぷりの愛だけ
 それで私たちの夢を背負って彼女が生まれたの」

ちょっと分かりにくいけれど、その後の歌詞を追っていくと、9ヶ月というのは妊娠期間のことを指していて、勝手に愛し合って子供を作り、その子に重荷のように期待を背負わせる両親をシニカルに表現しているようにも感じる。

BIG ISSUEに掲載されているインタビューによるとこの曲は、リナさんと母親との確執と、その後の相互理解がテーマになっているとのこと。イギリスに移住した後にしばらくして両親は離婚。父親は日本に帰国し、シングルマザーとなった母親によってリナさんは育てられる。思春期の頃は必要以上に厳しく拘束しようとしたり、英語が拙く周りに溶け込めなかった母親との関係は決して良好ではなかったけれど、大人になり距離を置くことで改善されていったそうだ。
 
その後の歌詞は一人称が娘の立場に変わり、家から逃げられない苦悩や孤独を綴りながら、曲の中で何度もリフレインされる、母親から離れてお互いに理解し合おうとする次のフレーズに続く。

「I ran away where clouds kiss the mountain peaks
 I was afraid but you put the wings on me
 Feet on the edge Feet on the edge
 So catch me in the air, Mama, look at me now
 Catch me in the air, Mama, look at me now,
 I'm flying
 雲で覆われた山の頂上まで逃げてきたの
 怖かったけれど、あなたは翼を授けてくれたの
 崖っぷちに立っているけど、ここから飛び立つよ
 だから空中で私を捕まえて、ママ、私を見て
 空中で私を捕まえて、ママ、今の私を見て、
 私、飛んでいるのよ」

母娘の関係をテーマにした歌詞でありながら、自分にとってトラベラーズノートこそが、自分たちを押さえつけてきた抑圧や不自由から逃れ、世界へと飛び立つための翼だったのかもしれないと思い浮かべてしまう。今でもぎりぎりで崖っぷちに立っているような気分になることも多いし、「空中で私を捕まえて」という言葉が、捕まえる方と、捕まえてもらう方の両方の視点が入り混じりながら、胸に突き刺さる。

「最も個人的なことが、最もクリエイティブになる」と言ったのは、マーティン・スコセッシ監督だけど、リナさんのリアルな痛みを伴った個人的体験から生まれた言葉だからこそ、さまざまな聴き手にとっての普遍的なメッセージとなり、感動を与えてくれる。

彼女の音楽には、イギリスに暮らす日本人として、また自らのセクシャリティから、虐げられてきたマイノリティーな立場に寄り添う曲も多い。そんなところも、風変わりなインディーズでありたいトラベラーズとして共感が持てるところでもある。つまり、何が言いたいのかというと、YouTubeのリンクを貼っておくので、ぜひ聴いてみてほしいということです。

2022年もあと少しになったけれど、今年も、今まで知らなかったすばらしい本や音楽、映画にたくさん出会えたし、トラベラーズとしても、これから楽しいことを一緒にできそうな方々との新しい出会いをたくさん経験できた。それだけで素敵な1年だったと思える。旅もたくさんできたしね。

今年も残り20日間足らずです。悔いのないように楽しくやりましょう。

Rina Sawayama - Catch Me In The Air
Rina Sawayama - Hurricanes

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