17周年は新しいオリーブとともに
公式サイトでお伝えしたとおり、2023年4月にオリーブが新たにトラベラーノートの定番カラーに加わることになりました。2018年にブルーが加わって以来の久しぶりの定番カラーということで、現在、タイの工房から流山工場までフル回転で準備を進めています。
オリーブの発売に向けて、昨年の秋頃から粛々と準備を進めてきたのだけど、なかなかこちらのイメージ通りのオリーブが上がらず、今年の1月にチェンマイに行くことになった一番の目的は、オリーブの最終的な色の確認と、その後のスケジュールの調整だった。
トラベラーズノートの革は、過剰な表面加工をせずにナチュラルに仕上げられているのだけど、その分、色の調整も難しい。例えて言うなら、生成りのコットン生地に水彩絵の具で水をたっぷり使って塗るようなイメージで、油性インクでべったり塗るよりは、色の濃淡のムラが出やすいし、生地自体の色の影響も受けやすい。
今回のオリーブも色の調整にかなり苦労をした。まずは、青みを減らして黄色をちょっと足すというような指示をしながら、サンプル作成と確認を繰り返して色味の調整をする。色味が決まると、今度は濃い・薄いの調整なんだけど、これがまた難しい。最終的には、タイの革のなめし工場で確認をしたのだけど、1枚の革の状態で見ると、背中の部分とお腹の部分で微妙に濃さや風合いが異なるし、トラベラーズノートの革は、柔らかく手に馴染むようにするため、革にオイルとパラフィンを染み込ませているので、その配合や量によって濃さだけでなく、革の風合い自体も変わってくる。そのバランスを調整しながら、自分たちが思うベストのオリーブを目指していった。
目指すオリーブの色は、ペンキを平滑にを塗ったような緑色ではなく、深い森に茂る草木の緑がそうであるように、青々とした緑に枯れ始めの土色がうっすらと混ざり、ちょっとした濃淡があり、光の加減によってさまざまな表情を見せてくれる、そんなオリーブだ。基本的には限定カラーのオリーブを目指して色を調整していったけれど、あれから6年経っているため、新たなレシピを一から作り、再度組み立てていくように色を調整していった。
もちろんトラベラーズノートの革だから、一冊ずつ色や質感のムラがあるし、もともとの革が持っている筋や傷もゼロではない。だけどその分、それぞれ個性があり、使うほどに変化していく味わいを楽しめる革になっている。自分と同じ人間は他にどこにもいないのと同じように、自分のトラベラーズノートとまったく同じトラベラーズノートはこの世に存在しないし、使うほどに、その使い手の個性が反映し、さらに変化していく。
革のなめし工場では、輸送されたばかり原皮を見ることができた。原皮には、まだ毛が生えていて生々しい牛の姿を想像させた。ほとんどの牛革がそうであるようにトラベラーズノートの革も革を作るためではなく、あくまでも食肉用に屠畜された副産物を使用している。それでも原皮を見ると、牛の命をいただいて革ができて、それがトラベラーズノートのカバーになることをあらためて実感した。だからこそ、大切に愛情を持って永く使うプロダクトでありたいと思った。
2006年に、黒と茶の2色の革カバーとたった4種類のリフィルとともに生まれたトラベラーズノートも、この3月で17周年になる。この17年間、リーマン・ショックに、東日本大震災、コロナ禍など、僕らの生活に大きな影響を及ぼす出来事があったし、スマートフォンにSNSが生まれて、最近ではリモート会議にライブ配信もあたり前になって、生活様式もだいぶ変わった。今振り返れば、けっこう激動の17年だったと思う。
僕らの仕事も、ものづくりからはじまって、イベントを開催したり、トラベラーズファクトリー4店舗にオンラインショップの運営、さまざまなブランドとのコラボレーションなど、活動の幅も大きく広がった。たくさんの仲間たちとの出会いが僕らの仕事の幅を広げてくれたし、業界も国境も越えることで、トラベラーズノートの世界は大きく広がっていった。
だけど、トラベラーズノートがその世界の中心であることはまったく変わっていない。革の色が増えたり、リフィルのバリエーションが増えたりしたけれど、形そのものはまったく変わっていない。トラベラーズノートに向かって何かを書いたり、貼ったり、描いたりする行為も心持ちもなにひとつ変わっていない。17歳の頃は、50歳を過ぎたらロックなんか聴かなくなって、クラシックとかジャズを聴くのか、それとも音楽から離れてしまうのだろうと思っていたけれど、17歳の頃に心を震わせていた曲に今でも同じように感動しているし、歳を重ねた分、より深く理解することで新たな魅力を見つけることもある。トラベラーズノートとの付き合いもそれと似ている。
このブログのフォーマットが変わったので、約1ヶ月ほどかけて、行替えを修正するのとあわせて、過去のブログを読み返してみたのだけど、言ってることの本質も16年前からほとんど変わっていない。発売時には36歳だった僕も今では53歳になって、多少は体力が衰えたり、老眼が進んだりして、体の方は変化しているけれど、相変わらず飽きずにトラベラーズノートを使っているし、興味が尽きることも、熱が冷めることも今のところない。
17年使っている黒のトラベラーズノートと、真新しいオリーブを並べてみると、形は同じだけど、表面にたくさんの傷があってツヤが出ている黒と比べると、真新しいオリーブはどこか初々しい。その初々しさが17年前にはじめてトラベラーズノートを手にしたときの、どうカスタマイズして、なにを書こうかとワクワクした気持ちを思い出させてくれる。なんだか、昔から好きだったミュージシャンの久し振りの新曲を聴くような気分だな。
新しいオリーブ、けっこう良い色になったと思っています。楽しみにしてお待ちくいただけたら嬉しいです。