2023年5月15日

チームと仲間

 70年代を代表するロックの名盤にもよく挙げられるフリートウッドマックのアルバム『噂』は、軽快でポップな曲が詰まっていて、それこそ雲一つない青空のカリフォルニアを車で走るのにぴったりのアルバムだ。だけど、このアルバムが制作された背景を知ってから聴くと、ポップなメロディーの裏にある影が感じられて、より深い味わいを感じることができる。

 フリートウッドマックは、1967年にデビュー。その後何度もメンバーチェンジを繰り返し、音楽性も変化させながら今も活動を続けている。『噂』の前作『ファンタスティック・マック』のリリース前に、当時ギターとヴォーカルを担当していたフロントマンのボブ・ウェルチが脱退。そこで、ドラムス担当でリーダーのミック・フリートウッドは、男女デュオとして活動していたリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスを加入させて新しい体制でバンドをスタートした。

 ちなみにリンジーとスティーヴィーとは高校時代からの恋人同士。元々のメンバーであるベースのジョン・マクヴィーとキーボードのクリスティン・マクヴィーも夫婦、そこにドラムスのマックがいるという、2組のカップルに男ひとりの男女混成バンドとなった。

 新体制でアルバムを制作し、長いツアーを行う中で、新メンバーのリンジーとスティーヴィーの仲が険悪になり、スティーヴィーとドラムスのミックが男女の仲になってしまう。さらに夫婦だったジョンとクリスティは離婚してしまい、クリスティンはツアーの照明スタッフと男女の仲になる。そんな修羅場のようなドロドロの極限状態で、メンバー間は緊張感に包まれながら『噂』は制作された。

 このバンドはリンジーとスティーヴィー、クリスティンの三人が曲を作ることができて、ヴォーカルをとることができる。

 スティーヴィーが「ドリームス」の中で、「バンドのみんなは一緒に演奏している時のあなたが好きなだけよ」と歌うと、リンジーは「オウン・ウエイ」で、「きみはきみがいいと思った道を行くがいい、そいつは孤独な道かもしれないけどね」と皮肉たっぷりの曲を歌う。さらにクリスティンが「ユー・メイク・ラヴィング・ファン」で、「あなたが私に愛する喜びを教えてくれるの」と新しい恋人のことを歌う横で、別れた彼女に未練たっぷりのジョンはベースを演奏する。

 愛憎入り交じるゴタゴタの中で神経を擦り減らしながらのレコーディングで、彼らをひとつにまとめたのは音楽だった。アルバムの中で唯一メンバー全員による共作の曲「ザ・チェイン」は、そのことを伝えてくれる。

「再びあなたを愛することはないかもしれない だけど、この絆は断ち切れないというあなたの言葉が耳に残ってる」という歌詞に続き、「鎖が私たちをつないでる 真っ暗なかで走り続ける」というサビを繰り返す。困難な状況も音楽やバンドという絆は彼らを繋ぎとめる。そして、素晴らしい音楽を作ることへと自分たちを突き動かす。そんなことを歌っているように思える。

 僕がこの曲の背景を知り、より聴き込むようになったのは、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観たのがきっかけだった。

 この映画は、どこにも居場所がない銀河系の流れ者たちが、ダメ集団の集まりのようなチームとなり、旅をして宇宙を救ってしまうというストーリーのSF映画。僕はこの手の、得意なことは秀でているけどちょっとした欠陥があるはみ出しものたちがチームとなることで、権威に反発しながら何かを成し遂げるというタイプの映画が大好物。『特攻野郎Aチーム』とか『がんばれ! ベアーズ』、ドラえもんの映画も基本的にはそんな話だし、バンドが好きなのも同じ理由かもしれない。

 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主人公のピーターは、地球人と宇宙人のハーフで、子供の頃に宇宙海賊に誘拐され、海賊の息子として育てられたという設定になっている。ピーターは母親の形見として、ウォークマンとお母さんのお気に入りの曲が詰まったカセットテープをいつも大事に持っているという設定もいい。それでこの映画では70年代のアメリカンロックが要所でBGMとして流れるのだけど、そこもまた、僕がこの映画に惹かれるポイントだ。

 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の2作目で、フリートウッドマックの「ザ・チェイン」が効果的に使われている。主人公の心がチームから離れ、さらにさまざまな困難に襲われて、チームがバラバラになりかけているタイミングで、メンバーを繋ぎ止めようとするかのように「ザ・チェイン」が流れてくる。そして、困難を乗り越えることで、チームの絆はさらに深まり、家族のような存在となっていく。映画はフィクションだけど、困難が『噂』という名作を産んだという事実を知っていることで、物語にリアリティを与え、感動を深めてくれるのだ。

 このことをブログに書こうと思ったのは、現在公開中の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の3作目を観てきたから。相変わらずのデコボコチームっぷりは健在で、音楽の使い方もすばらしい。前作でお母さんの形見のウォークマンが壊れてしまって、今作からはその代わりに、地球で見つけてきたというマイクロソフトのZuneという今はない音楽プレイヤーが相棒となる。そのことで70年代縛りがなくなってより幅広いロックの名曲群が流れる。

 映画の冒頭、いきなり流れるのが、レイディオヘッドの名曲「クリープ」。自分の姿がアライグマであることをいつもバカにされているメンバー、ロケットが、うつむいて歩きながら「おれは気持ち悪い変わり者なんだ。」と歌詞を呟く。それだけで目頭が熱くなってくるんだけど、その後「完璧な肉体に完璧な魂がほしい、僕の存在に気づいてほしい、君は僕にとって特別な存在なんだ」と曲が続くと、もうそれだけで涙が溢れてしまう。「クリープ」から最後に流れるスプリングスティーンの「バッドランド」まで、もう感動しっぱなしで映画館を後にした。

 映画を見終わると、このブログを書いてから、entwaのPOP UPイベントの打ち上げに参加するためにトラベラーズファクトリー中目黒へ行った。entwa/NAOT JAPANの代表の宮川さんはロック好きということで、僕は嬉しくなって、ここで書いたことをそのまま熱く語ってしまった。だけど、宮川さんは共感してくれて、ロック談義はさらに盛り上がった。同じ想いを共有できるチームがあって、それを分かち合える仲間がいるのは、なにより嬉しいことだし、それがあればもう他にはなにもいらないのかもしれないと思った。