2023年9月25日

流山工場へ

 来月開催する工場見学イベントの打ち合わせのために、流山工場へ行ってきた。流山工場は、その名の通り千葉県流山市の南流山駅からバスに乗って10分程度のところにある。もともと周囲は畑に囲まれて、緑の匂いが漂うのどかな場所だったのだけど、つくばエキスプレスの駅ができてから急速に周辺の宅地開発が進み、今では歩いて行ける範囲にスタバからユニクロ、スシロー、ヤオコーなどがオープンして賑やかで便利になっている。そのためもあってか、「千葉県流山市木25」という実にシンプルで覚えやすい住所が、来月より何丁目何番地何号という長めの住所に変わるようだ。その発展していく様は、昔好きだったゲームのシムシティみたいで、ゲームのように進んでいくと、そのうち流山工場も超高層ビルのハイテク工場になってしまうのかな、なんて思ってしまう。

 そんな中で、バスを降りて新築の家が並ぶ道を少し歩くと、「DESIGNPHIL」の看板が掲げられた我らが流山工場が見えてくる。門を通り抜けて中に入ると、工場の前にはコンテナトラックも入れるような広々としたスペースがある。正面には、シャッターが閉じいたり、空いていたりする6面の入り口に、左端には屋上へ続くスロープがある。その様は、子供の頃にテレビで見たサンバーバードの秘密基地の一角を思わせて、ワクワクする。

 工場の中に入ると、スタッフに挨拶をしながら、2階の会議室へと行く。まずは、会議室で見学イベントの流れを確認する。そして、その流れに沿って工場の現場を巡り、確認をしていくことにする。

 最初は、オフセット印刷の版を作る刷版(さっぱん)室。ここで、Macで制作したデザインのデータから印刷用の版を作る。オフセット印刷は、CMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の四色を細かい網点で組み合わせることで、どんな色でも表現することができる。ただ、この色がくせもので、コンピューターの画面で見る色と、実際に印刷される色には当然差がある。この刷版室では、デザイナーのイメージにできる限り忠実に印刷されるように、データを微妙に調整しながら、版を焼いていくのだけど、これがなかなか大変なのだ。デジタルでの仕事ではあるけれど、長年の経験と色のセンスを要する仕事でもある。

 続いてオフセット印刷へ。巨大な印刷機に刷版室で焼いた版を取り付けて、印刷していく。ここでも刷り上がった紙をチェックしながら、微妙に印刷の圧を調整し理想的な色にしていく。調整が終わると、ハイスピードでどんどん紙が刷り上がっていく。

 次は、活版印刷へ。活版印刷はご存じのように、オフセット印刷機ができるはるか昔から使われていたアナログの印刷方法。亜鉛などで作られた凸版を使用して、ハンコのように紙に押していく。印刷のスピードはゆっくりで、オフセットのようにCMYKでフルカラーの印刷をするには向かないけれど、その分、インクのちょっとしたカスレや、版の跡の窪みが出る。カスレも窪みも、かつては活版印刷のネガティブなポイントとして認識されていたようだけど、今ではそれが温かみを感じさせてくれる活版ならではの魅力となっているのもおもしろい。

 活版印刷機は、見た目も昔ながらの機械といった感じでかっこいいし、ガシャガシャと印刷していく様も分かりやすいので、見ているだけで楽しい。きっと見学会のひとつのハイライトになるんだろうな。

 活版印刷機を動かしている職人は、僕らが行くと、「見学イベントではなんでもやりますよ。みんなに喜んでもらいたいからね」と笑顔で言ってくれた。普段は納期やその先の工程にあわせて、日々スケジュールを調整しながら、忙しく仕事をしているのに、10月13日は1日空けてイベントの対応をしてくれると伝えてくれた。そんな気持ちに僕らも嬉しくなるし、いいイベントにしなくちゃと意気が揚がる。

 続いて、製本部門に移動。ここでは、断裁や折り、穴あけ、製本、箔押しなどの工程を行っている。ひとつひとつ工程を確認しながら、最後にイベントで行う予定のちょっとしたワークショップの流れを確認していく。ネタバレになってしまうので、詳細はここでは書かないけれど、工場でなければできないワークショップになると思うので、参加される方はぜひ楽しみにしてください。

 これもまた、普段の仕事の流れを止めてしまうような、工場のスタッフにとっては、手間をかけてしまう企画なんだけれど、それをみんなが楽しんでやろうとしてくれるのが嬉しい。工場見学イベントは、基本的には参加したお客さんにノートができあがっていく工程を見てもらい、楽しんでいただくのが目的ではあるのだけど、同時に、僕らはもちろん、工場のスタッフみんながお客さんと接して、喜んでもらう姿を見てもらうことも、大きな目的のひとつだと考えている。

 トラベラーズノートを実際に使っている皆さんと、企画する僕ら、そして、現場で実際に生産をしている職人やスタッフが顔を合わせて、一緒に何かをすることで、きっと新しいアイデアが生まれてくるだろうし、何よりみんなが楽しい時間を過ごすができる。さらに、日々の仕事に前向きな刺激を与えてくれて、自分たちの仕事の意味を再発見することにつながればいいなと思っている。

 工場イベントでは、トラベラーズファクトリーが生まれるきっかけにもなった、流山工場の社員食堂に作ったトラベラーズカフェのコーナーも再現する。まだファクトリーができる前、スタッフ同士のイベントを流山工場で開催した際に、遊びで食堂の一角にカフェコーナーを作ってみんなにコーヒーを淹れたことがある。それが楽しくて、自分たちの基地みたいな場所があれば、お客さんを呼んで同じようなことができるかもしれない、と思ったのもファクトリーを作る動機になった。あれから何年かして、実際に基地ができて、トラベラーズファクトリー中目黒ではコーヒーを飲むことができるようになったけれど、その原点となった場所にお客様を招待するというのも、なんだか感慨深いなあ。

 打ち合わせが終わると、この日は南流山の居酒屋で10月13日に向けての決起集会のような飲み会をした。いろいろ大変なこともたくさんあるけれど、あらためて、ものづくりの楽しさと、流山工場のみんなの素晴らしさを再確認できた良い1日となった。

 工場見学イベントは、SNSでも写真をアップしていきますし、ここでも後日レポートをしたいと思いますので、参加できない方も楽しみにしていただけると嬉しいです。