トラベラーズスピリット
先週、成田空港に行ってきた。空港関係者の話では、出入国者数はコロナ前と比べて完全に戻っているわけではないようだけど、それでも空港の中は、海外からの旅行者たちで賑わっていた。その様子は、空港が本来持っている旅の高揚感に満ちた雰囲気を取り戻しているように見えた。トラベラーズファクトリーエアポートにも、海外からやってきたお客さんがいて、笑顔で店内で商品を手に取ったり、スタンプを押したりしていた。
そういえば、今年のトラベラーズとしての最初のニュースは、トラベラーズファクトリーエアポートの3年越しの再オープンだった。再オープン前は、ほんとうにお客さんが来てくれるか不安だったけれど、今ではたくさんの旅人がこの場所に足を運んでくれている。中目黒もステーションも京都も連日たくさんの方が国内外から来てくれて、最近は海外からのお客さんの数は、コロナ禍以前より増えている。きっと、コロナ禍で長い間、押さえ込んでいた旅への欲求が解き放たれて、多くの人がまた旅を始めているのだと思う。その分、店内にいる海外のお客さんはみんな旅ができる喜びに満ちているように見える。
僕自身も、1月にはコロナ以降はじめての海外出張で久しぶりにタイへ行ってきたし、10月にプライベートでフィンランドへ行くことができた。国内も3月に奈良・犬山・沼津のキャラバンでの旅をはじめ、5月に鹿児島、7月に京都、8月に新潟から富山への自転車旅とたくさん旅ができて、いよいよ本格的な旅が再び始まったと実感できる1年となった。
毎年、発表される今年の漢字が「税」だったみたいだけど、トラベラーズとしては「旅」を今年の漢字に決めたいと思う。トラベラーズだから、いつの年も「旅」ばかりになりそうだけど、それでもやっと堂々と胸を張って「旅」と言えるようになったのは感慨深い。だってコロナ禍では、トラベラーズなのに「旅をしよう」と言うことすらできなかったんですよ。まるで翼の折れたエンジェルみたいなものです。
トラベラーズノートは、このノートを手にすることで旅するように毎日を過ごしてほしいとの思いで作っている。だけど、旅するように毎日を過ごすためには、やっぱり旅が必要だ。トラベラーズノートを持って旅に出て、好奇心を刺激してくれる出会いや、自分の常識を揺るがすような体験、旅の高揚感に癒しや感動をノートに記すことができてこそ、その感覚を日常にもたらすことができる。
たまにピストルズやクラッシュのアルバムを聴くことで、心に喝を入れ、奮い立たせることで、パンクスピリットを忘れずに日々過ごすことができるように(ちょっと分かりづらい例えですね)、ときには旅をすることでトラベラーズスピリットを忘れずに、毎日生きていくことができるのだ。
クラッシュのジョー・ストラマーは、「パンク」は音楽スタイルとかファッションではなく「アティチュード」である、つまり生きていく姿勢だと言っている。トラベラーズの旅もまた、旅の仕方とかスタイルではなくアティチュードを大切にしたいと思っている。世界中を放浪するバックパックでの旅でも、一泊二日の温泉旅行でも、仕事の出張でも、旅はここではないどこかへ移動することで、普段見ることができないものを見せ、いつもの生活圏では会えない人との出会いを与え、未知の体験へと導く。心を開き、それらを受け入れて、頭の中で反芻することで、旅は必ず旅人自身の人生に影響をもたらす何かを与えてくれる。トラベラーズノートは、そのための道具だと思っている。
さらにトラベラーズノートは、旅に出ることができない日々には、トラベラーズスピリットを忘れないための道具にもなる。パンクスピリットが、既定の権威や常識に常に疑問符を掲げ、自分自身の思いや直感に誠実であるとか、虐げらる側の視点を忘れないとか、できる限り自分たちの手でやり切ろうとするDIY精神だとすると、トラベラーズスピリットは、好奇心を失わず自由で、ローカルな文化的背景を尊重しつつ、国や人種などの属性ではなくひとりの人として向き合うとか、リアルな触れ合いや体験を大切にするとか、そんな気持ちをなのかもしれない。
とにかく、旅を抑制しなければいけない日々が長く続いた分、2023年は、よりその価値が分かった1年になったような気がする。
先週のこと。毎日新聞の論説委員、元村有希子さんより取材を受け、その記事が12月13日付の毎日新聞・水説に掲載された。トラベラーズノートに触れていただいた流れで語られる旅についての文章がとても素晴らしかったので、こちらで引用したいと思います。
--- そう、人は旅をせずにはいられない動物である。移動を禁じられるつらさはコロナ禍でいやというほど味わった。規制解除後の今年10月に来日した外国人の数は、コロナ前を上回ったという。
アフリカで誕生した初期人類も数十万年前、旅に出た。意志を持って「ここではないどこか」へ向かった。突き動かしたのは未知の場所への好奇心か、より豊かな生活への欲望か。その土地の気候になんとか適応して生き延びながら進化し、文明を築いた。その末端に私たちは生きている。(中略)
もちろん、旅は帰る場所があってこそ成り立つ。昨年、世界の難民は1億人を超えたという。今後は地球温暖化に伴う「気候難民」の増加も指摘される。
パレスチナの人々の、あてのない放浪に胸が痛む。旅は、平和のたまものなのだ。(毎日新聞12月13日 水節「旅をする動物」元村有希子氏より引用)---
記事全文は有料記事になりますが、こちらでご覧いただけます。