It's a new year, I’m feelin’ good
皆さま、あけましておめでとうございます。2024年になりましたね。
なんて、新年の挨拶を書いているけど、年賀状と同じようにこれを書いている時点では、まだ年は明けていません。実は年末の休みに東京を旅しながら、このブログを書いています。ここ数年、コロナ禍で覚えた東京旅にちょっとハマっていて、年末の休みも自転車で旅するように東京をうろうろ巡っていました。
コロナ禍がはじまり、旅をすることが憚られるようになると、東京のホテルの価格も劇的に下がりました。それまでニ万円近くしたホテルが、四千円程度で泊まれるのを知った僕は、長い休みになると、旅気分を味わいたくて、それらのホテルに泊まることにしました。あの頃は都内に住んでいる人が、東京を出ることさえ許されないような雰囲気があったから、ならばと、東京を旅することで旅ができないうっぷんを晴らそうとしたのです。
都内だから、自転車でふらっと家を出る。ゆっくり時間をかけて、ホテルに行き、チェックインすると、街をぶらぶらして見つけた町中華とか居酒屋に入る。良さげな銭湯を見つければそのまま入って、ホテルに戻る。朝、ホテルを出ると、喫茶店のモーニングをゆっくり食べてから、映画を見たり、美術館に寄ったり、カフェでのんびりしながら、次のホテルに向かう。そんな気軽な旅は意外と楽しく、さらにそれまであまり馴染みがなかった街を旅気分で歩くことで、東京の新しい魅力を知ることができたのも嬉しいことでした。
あの頃には四千円で泊まれたホテルも、最近ではコロナ禍がはじまる前以上に値上がりしているため、ホテルを泊まり歩くことはできないけど、それでもサウナ付きカプセルホテルであれば四、五千円で泊まれるところがけっこうあります。ということで、年末は東京のカプセルホテルを巡って過ごしてます。
この日は、朝にサウナに入ってから、ホテルの食堂でブランチのような遅めの朝食をとると、ホテルをチェックアウトし、映画を見ることにしました。ヴィム・ヴェンダース監督の最新作で東京が舞台、さらにタイトルが僕が好きなルー・リードの曲から引用されているということで、気になっていた『PERFECT DAYS』を観ました。
映画は、役所広司演じる主人公が、早朝、古い木造アパートの部屋で目を覚ますシーンから始まります。そして、彼が布団を畳み、歯を磨き、顔を洗い、髭を整え、植物に水を与え、仕事着に着替えて家を出るまでを淡々と映していきます。家の外にはスカイツリーが見下ろすようにそびえ立っていて、その場所が東京の下町で、僕の家にそう遠くないことが分かります。
主人公は家の前に停めてある軽のバンに乗ると、アニマルズの『朝日があたる家』をカーステで聴きながら、首都高を走らせます。その後、高速を降りてたどり着いた風景がどこか見覚えがあると思っていたら、うちの会社のすぐ裏にある公園のトイレであることに気づきました。主人公は渋谷区の公衆トイレの清掃員をしているのですが、あの見慣れた公衆トイレも清掃してくれているのかと思うと、急に彼を身近に感じました。
彼は、さらにいくつかの公衆トイレを掃除して回り、仕事が終わると、まだ明るい時間に家に帰ります。そして、服を着替えると、自転車に乗ってどこかへ出かけます。すると、今度は近所の見慣れた銭湯の入り口が画面に映って、思わずハッとしました。そこは僕もよく行く銭湯で、映画ではなぜか男湯と女湯の入り口が逆になっていたのだけど、そのことに違和感を持つくらい馴染みの風景でした(たぶんヴェンダース監督は女湯の方のペンキ絵を気に入ったのだと思う)。
主人公は、どうやら僕の家のかなり近くに住んでいるようで、その後も見慣れた商店街の風景が何度か画面に映りました。そうなると、六十歳をだいぶ過ぎて、トイレの清掃員をしながら、ひとり東京の下町の古アパートで質素に暮らす主人公の平山は、身近な存在というよりも、何年後かの自分のような気がして、他人事とは思えなくなってきました。
映画では、はっきりと描かれないのですが、主人公はかつてはそれなりの地位だったけれど、何かから逃げて、今の暮らしをしていることがほのめかされます。だけど、その生活は、悲惨さや寂しさより、むしろ孤独を愛し、淡々と日々の暮らしを楽しんでいる様子を感じさせるのです。
主人公は、朝起きて家を出ると、自動販売機でいつも同じ缶コーヒーを買って車に乗ります。そして、仕事として、同じ公衆トイレを巡回し、清掃をします。昼食はいつも神社のベンチでサンドイッチを食べて、仕事を終えると、同じ時間に同じ銭湯に入り、浅草の地下街の飲み屋で同じお酒を飲む。家に帰ると、古本屋の100円コーナーで手に入れた文庫本を読みながら眠りにつきます。そんな一日を判で押したように毎日繰り返しています。だけど、清掃員の仕事に誇りを持ち、車から見える風景や、神社の木々からの木漏れ日の美しさに心を奪われ、笑みをこぼす暮らしは、退屈さを感じさせません。
主人公がカーステで聴く音楽は、ベルベット・アンダーグラウンドに、オーティス・レディング、パティ・スミス、ヴァン・モリソンなどの60、70年代のロック。流れてくるのはどれも僕も好きな曲ばかりです。彼はハンドルを握りながら、きっと何度も聴いているであろうニーナ・シモンの曲を聴いて、思わず涙ぐんでしまいます。
そういえば僕も、自転車通勤でルーティンのように同じ道を走りながら、ライトアップされた美しい風景に心を奪われることもあるし、iPhoneから流れる音楽を聴いて涙ぐんでしまうこともあります。
この映画の東京の風景は、ヴェンダースらしく世間が定義する普通の生活から抜け落ちてしまった人たちの視点で、どちらかといえば影の部分に焦点を当てているのだけど、それがなんとも言えず美しいのです。そして、影のようにひっそり暮らしていても、ささやかな幸せを慈しみ、文化的で美しく暮らしていくことができることを教えてくれるのです。映画に感動すると、再び自転車に乗って、次のホテルへ向かいました。
年の瀬が迫った東京の安いカプセルホテルは、まさに東京の陰を感じさせる風景でもあります。ホテルに着くと、警察官が何人かいました。すると、エレベーターに乗り合わせたおじさんが、「また誰かの財布が盗まれたんだよ。あんたも気をつけた方がいいよ」と話しかけてきました。
夜中にカプセルで寝ていると、スタッフと客の話す声で目が覚めました。どうやら、予約していたベッドに他の人が勝手に寝ていたようで、「お客さん、お金払わないとここでは寝られないんですよ」というスタッフの声に続いて、「うう、ああ、分かった、分かったよ」という寝起きの老人のしゃがれた声とともにバタバタと足音が聞こえてきました。
だけど、お風呂やサウナでくつろいでいるおじさんたちの顔は、役所広司演じる映画の主人公のように、みんな幸せそうに見えます。なんというか、もうこれで十分と思えるのです。映画では、主人公にささやかな幸せが訪れた瞬間にルー・リードのタイトル曲が流れます。2024年。僕もそんなふうに暮らせたらいいなと思います。
「Just a perfect day
Drink Sangria in the park
And then later, when it gets dark, we go home
Just a perfect day
Feed animals in the zoo
Then later, a movie, too, and then home
Oh, it's such a perfect day
まさに完璧な一日
公園でサングリアを飲んで、
それから日が暮れたら家へ帰ろう
まさに完璧な一日
動物園で動物にエサをやって、
それから映画でも観て、家に帰ろう
なんて完璧な一日なんだろう
(Perfect Day - Lou Reed)」
話は変わりますが、トラベラーズファクトリー中目黒は1月4日までお休みをいただいていますが、京都は1月1日のみ休みで、エアポートとステーションはお正月も休まず営業しています。
また、今年も恒例の新春イベントを開催します。京都では1月2日、エアポートでは1月3日、ステーションでは1月4日、中目黒では1月6日より、リフィルやステッカーなどが当たる新春福引がはじまります。さらにオンラインショップでも1月10日より、新春プレゼントキャンペーンを実施します。今年もトラベラーズカンパニーとトラベラーズファクトリーをよろしくお願いします。
2024年が皆さまにとって、すばらしい1年でありますように。
Have a nice trip!