2024年6月24日

トラベラーズファクトリー巡り

 人を何かの基準でカテゴライズするのはあまりいいことではないけど、僕は陰と陽で言うと、陰の方が強いタイプだ。そのことを自覚するようになったのは、中学生になった頃だと思う。急に自意識過剰になって、人前で話したり、誰とでも仲良くなる、なんてことが苦手になった。特に女の子に対しては壊滅的。言葉を交わすことすらできず、机から落ちた消しゴムを隣の席の女子に拾ってもらっても、「ありがとう」の一言すら口にすることができず、ただペコリと顔を下げるのがやっとだった。

 もちろん女の子が嫌いなわけではなく、むしろ憧れの対象ではあるんだけど、憧れが募るほどにますます話せなくなった。もちろん、密かに好きな女子だっていたけれど、その子が男と楽しそうに話しているのを見ただけで、失恋気分を味わった。

 そんな性格だったから、ひとり本を読んだり、音楽を聴くことにのめり込んでいき、周りのほとんどの人と共有できない知識だけが増えていった。そうするほどに、どんどん周りから浮き、自分が間違った場所にいるような気になった。例えば、クラスの男女何人かで遊園地に行った、なんてことを誰かの話し声からふと知ってしまう。そうすると、自分が誘われなかったことを嘆くよりも、遊園地なんてくだらないと心の中で強がった。まだSNSとかLINEがない時代だったから良かったけど、他の人の楽しい時間をいやがうえにも知らされてしまう今は、なかなか辛い時代だと思う。

 そんな思春期を過ごしてきたからこそ、同じ思いを共有し、ともに仕事をする仲間がいるのは、本当に幸せなことだと思う。あの頃と比べたら、今の方がよっぽど楽しいし、中学生の頃に戻りたいなんてまったく思わない。

 先週、年に一度の恒例行事でトラベラーズファクトリー中目黒から始まって、ステーションにエアポートに行き、スタッフ一人ひとりと話をした。コロナ禍が落ち着いてからお客さんが増えてきたこともあって、ここ1年でスタッフの数も増え、このタイミングで初めて会うスタッフも何人かいた。

 それなりの人数になるので、大変ではあるけど、スタッフみんなと話をするのはやっぱり楽しい。まずは、日々忙しいなかでトラベラーズファクトリーを支えてくれていることの感謝をしてから話をはじめる。

 それぞれの悩みを聞いたり、仕事の相談を受けたりすることに対して、僕なりに頭をひねって言葉をかけるのだけど、うまく解決してあげられなくてもどかしくなることも多い。偉そうに話をするけど、正直に言えば自分だって悩んだり、失敗したりすることばかりだし。

 スタッフの多くは、小さかったり、大きかったり何らかの夢を持ちながら、仕事をしている。トラベラーズファクトリーでの仕事に直結する夢もあるし、個人的に音楽や芝居、ものづくりなどの活動を行いながら、その成功を目指しながら、仕事をするスタッフもいる。彼らのそんな姿に純粋に敬意を抱くし、トラベラーズファクトリーで働くことが、少しでも彼らの夢が実現するための役に立てば嬉しい。

 金曜日には成田空港に行った。空き家が多かったトラベラーズファクトリーの周辺にも新しい店舗がオープンし、久しぶりの成田空港は、完全にコロナ前の賑わいを取り戻していた。チェックインカウンターにはたくさんの人が並び、これから旅立つ人と、旅先から帰ろうとする人で溢れていた。

 空港関係者の方の話では、出入国者数は、コロナ前の人数をほぼ取り戻しているそうだ。ただ、海外から日本にやってくる人はコロナ前をかなり上回っているのに、日本から海外へ出国する人はまだコロナ以前より少ないとのこと。円安の影響が大きいと思うのだけど、それはそれで悲しい。日本に住む人にとっても、早く以前のように気軽に海外への旅ができるようになるといいんだけどね。

 先週はトラベラーズファクトリー京都の4周年について書いたけれど、エアポートは、あと2週間ほどで10周年になる。途中3年間の休業期間があったりして、京都以上に波乱万丈の10年間だったのかもしれない。今、こうしてたくさんの旅人が訪れてくれるのを見ると、感慨深い気持ちになる。

 仕事が終わると成田駅まで行き、エアポートのスタッフとみんなで打ち上げのように飲んだ。昨年の再オープンから加わってくれたメンバーたちもすっかりトラベラーズに馴染み、和気あいあいとした和やかな雰囲気に包まれた。

 自分の子どもと大して変わらない年頃のスタッフもたくさんいて、そんなみんながトラベラーズファクトリーのメンバーとしてがんばってくれているのが嬉しい。酔っ払って調子にのった僕は、「自分はどちらかと言えば陰が強い人間なんだけどね」と冒頭で書いたことを語ってしまう。

 要は、今この瞬間僕は幸せであることを言いたかっただけなのもかもしれない。思春期の自分と話せたら、いろいろあるけど、そのうち楽しいときもやってくるから、がんばれよと言いたい。みんな、ありがとう。