2024年7月 8日

BLACKWING

 ジャック・ケルアックの自伝的小説を原作とした映画『オン・ザ・ロード』には、主人公が旅先で何かを書き込んでいるシーンが何度も出てくる。例えばどこかの軒先で、小さなメモに短くなった鉛筆で一心不乱に書き込んでいる姿を見ると、彼にとって旅をすることは表現をすることでもあることが分かる。それはまるでトラベラーズノートの原点みたいで、旅を書きとめるためのノートの存在価値を改めて教えてもらったような気がした。

 2013年、『オン・ザ・ロード』の日本公開を記念して、コラボレーションアイテムとして、パスポートサイズのリフィルとブラスペンシルを作った。あえてブラスペンシルを選んだ理由は、主人公が鉛筆で書き込む姿に憧れを抱いたからだった。『オン・ザ・ロード』の舞台は1950年代。それから70年以上の月日が経ち、さまざまな筆記具が登場したけれど、旅に最適な筆記具は今でも鉛筆だと思っている。

 いつでもどこでも必ず書ける。突然インクが切れたり、漏れたりすることもない。滲んだり、裏抜けしたりすることも絶対にない。旅先のホテルはもちろん、小雨の降る公園に、灼熱の砂漠でも吹雪の雪山でも書くことができる。飛行機に乗っての気圧の変化も問題ない。落としても、濡れても壊れない。芯が折れたり、丸くなったら削ればいい。書き間違えたら消すことだってできる。鉛筆はまさに旅にぴったりの筆記具だと言える。

 もちろん万年筆に油性やゲルインクのボールペン、シャープペンなどにも、それぞれ良さがあるけれど、鉛筆はそれらの原点のようなものだ。今は知らないけれど、僕が小学生の頃は鉛筆しか学校に持って行くことができなかったから、最初に手にした筆記具も鉛筆だった。学校から帰ると、筆箱の鉛筆を一本ずつ電動の鉛筆削りできれいに削って翌日に備えた。今でも鉛筆を削って、木や黒鉛の香りがすると、あの頃の気持ちが蘇ってくる。

 旅に最適な鉛筆として、もうひとつ重要なポイントは、消しゴムが付いていること。書き間違いもその場でチャチャっと消して直せるのがいい。2年前にリリースしたトラベラーズホテルとトラベラーズエアラインの限定セットに消しゴム付きの鉛筆を付けたのは、そんな思いがあったからだった。ちょうど10年前、アメリカのポートランドにあるエースホテルに泊まったときのこと。部屋のデスクにメモ帳とともに用意されているのがボールペンではなくて、ロゴがプリントされた消しゴム付きの鉛筆だったときには、さすがだなあと思った。

 ただ鉛筆についている消しゴムは、消しづらいものが多い。本来、消しゴムは柔らかい方が消しやすいのだけど、鉛筆の先の小さな場所に固定しなければならないため、消しゴムの硬度を高くしないといけない。それゆえにガシガシ消すというより、緊急用に使うという感じだ。

 BLACKWINGの鉛筆を最初に使ったとき、まずその消しゴムに感動した。鉛筆の消しゴムは、普通円柱状だけど、BLACKWINGのそれは、平たい四角形でやわらかく消しやすい。さらに金具から飛び出ている突起を引っ張ると、消しゴムを繰り出せるので、目一杯使える。シンプルだけど、よく考えられた構造で、これこそ、理想的な消しゴム付き鉛筆だと思った。

 さらに書き味も滑らかで柔らかい。定期的にリリースされる限定の鉛筆も、アナログレコードやバウハウス、ウッディ・ガスリーにブルース・リーなどのテーマに、デザインも惹かれるものが多い。いつしかペン立てに何本かのBLACKWINGが並ぶようになった。

 そんなこともあって、TRC USAのスタッフを通じてBLACKWINGのブランドマネージャーを紹介してもらったとき、ぜひ会いたいと返事をした。BLACKWINGの鉛筆は、ここで書いたように1998年に一度生産が中止し、2010年に復刻している。復刻の際に、独特の滑らかな書き味を求めて世界中の鉛筆工場を調べ、たどり着いたのが日本だった。工場を訪問するために毎年日本に行くから、次に日本に来たときに会おうとなった。

 だけどその頃は、コロナが世界を席巻していたタイミングで、なかなか会うチャンスに巡り会えなかった。それからしばらくして、昨年ブランドマネージャーのアレックス氏が来日。トラベラーズファクトリー中目黒で会い、話をするなかでコラボレーションのプロジェクトが始まった。

 今回のコラボレーションアイテムのトラベラーズノートにリフィル、チャームはBLACKWINGをイメージして橋本がデザイン。鉛筆とポイントガードは、BLACKWINGのデザイナーがトラベラーズをイメージしてデザインしてくれた。木目と黒のツートーンの鉛筆は、トラベラーズからイメージした経年変化を楽しめる無垢の木目とBLACKWINGの黒を意味している。使い始めはツートーンの鉛筆が、使い続けるうちに短くなり、木目だけのデザインに変化していくのも楽しい。ポイントガードは、コラボレーションのテーマカラーとしてBLACKWINGが提案してくれたブルーグレーに塗装。さらに、トラベラーズノートのロゴの地球儀とBLACKWINGのBをミックスしたコラボロゴをプリントしている。

 鉛筆の硬度は、通常の鉛筆の2Bに相当する「バランス」をセレクトした。BLACKWINGの芯の硬度は、独自の基準でエクストラファーム、ファーム、バランス、ソフトの4種類がラインアップされている。Bに相当するファーム、2Bのバランス、4B相当のソフトの中からどれにしようか悩んでいた。そんな中、4月に原画展を開催してくれた沢野ひとしさんの『ジジイの文房具』を読んでいたら、BLACKWINGも取り上げていた。そこで、沢野さんが愛用していることを知って、「バランス」に決めた。

 ちなみに沢野さんは本の中で「たしかにこの高級鉛筆は短くなればなるほど愛着が湧き、アイデアが生まれ、想像力が高まる大人の道具として手放せない。軸の消しゴム部分に異質な金属を付け、四角い消しゴムをはめた発送がいかにも自由なアメリカを表している」とBLACKWINGの魅力を語っている。

 実際に届いたサンプルで書いてみると、やはり書き味も素晴らしい。BLACKWINGの意向もあって、鉛筆は1ダース単位での発売になるけど、せっかくのコラボモデル。ぜんぶ使い切るまで、長く使ってみたいと思う。

 BLACKWINGとのコラボレーションアイテムは、日本国内では7月17日にトラベラーズファクトリー各店で発売になります。楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです。


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