倉敷から京都へ
電車で旅に出て、駅を出る瞬間が好きだ。エアコンの効いた電車を降りて、人の流れにそって改札を抜け、駅を出る。その瞬間に土地の空気を浴びて、空からの熱い日差しや冷たい冷気で遠くに来たことを全身で感じる。眼前には見慣れない風景。駅前の商店街なんかを歩くと、食堂や惣菜屋から美味しそうな匂いがする。お店と地元のお客さんとのやり取りから、その土地の方言が聞こえてくると、もうそれだけで気分が上がる。
8時12分に東京駅を出発して倉敷駅に着いたのは、ちょうど正午頃だった。土曜日だからか、たくさんの乗客が僕と同じように電車を降りた。人の流れに沿って改札を出ると、トラベラーズスタッフの青山が出迎えてくれた(彼女は、訳あって今年初めに東京から倉敷に引っ越している)。駅には岡山に拠点を持つローカル百貨店、天満屋。商店街を抜けると倉敷美観地区に出た。
ここを歩くのはキャラバンイベント以来なので、2年ぶり。歴史を感じる美しい街並みを歩きながら、この2年いろいろあったなあ、と感慨に耽った。ちなみに、いろいろあったのは僕自身というより、青山を含めたあのとき一緒にキャラバンの旅をした仲間たちの方で、僕自身はそれらのことに右往左往しただけで、大した変化はない。
まずは美観地区内にあるT.S.L Kurashikiを訪問。ここは日本で唯一のトラベラーズカンパニーのパートナーショップとして、トラベラーズファクトリーのアイテムやオリジナルリフィルを展開してもらっている。さらに店内にミシンが設置され、T.S.Lが製作しているレザーポケットやワッペンなどをトラベラーズノートに縫い付けてくれるカスタマイズサービスも行っている。お店のスタッフにお話を聞くと、たくさんのトラベラーズノートユーザーの方が訪れてくれているとのこと。この場所をきっかけに、トラベラーズノートを手に倉敷を旅する方がいることに、素直に嬉しくなった。
続いて、9月にオープンしたばかりのT.S.L STORE & LABへ。美観地区を離れて5分ほど歩くと、観光客はほとんどいなくなる。静かな古い一軒家が並ぶ道を歩いていると、日本が誇るヴィンテージスクーター、ラビットを発見。車体にはカタカタでザ シュペリオール レイバー、さらに漢字で高品質、皮革製品、カンバス鞄と記され、ラビットが現役だった昭和風にカスタマイズされている。代表の河合さんらしいセンスにニヤリとすると、引き戸を開けて店内入った。すると、河合さんが相棒の精悍なシェパードとともに迎えてくれた。
中は、工房とショップスペースに区切られている。工房にはミシンが4、5台並び、エンジニアポーチなどの生産も行っているとのこと。ショップスペースには、タンクバッグやチェーン付きの財布などのオートバイをテーマにしたラインアップに、あえて倉敷帆布ではなくアメリカのキャンバスを使ったポーチやバッグ、さらにデニムやジャケットなどのアパレルも並んでいる。また装飾品としてグレッチのギターやニコンのフィルムカメラに各種レンズ、バイクのヘルメットやキャブレターなどが置かれている。旧式トライアンフのオーナーでもある河合さんの、ライフスタイル提案なんていう言葉が嘘くさくなるくらいの個人的な趣味がたっぷり詰まった空間にわくわくする。
店内を一通り見ると、河合さんに誘われて一緒に店の裏の駐車場に行き、タバコを吸いながら話をした。喫煙者が少ない昨今、一緒にタバコを吸える人がいると同志を見つけたようで嬉しい。不良っぽい風貌の河合さんと人のいない店の裏でこそこそとタバコを吸っていると、校舎の裏で吸っているような気分になった。
その後、控え室に戻り、奥さんも交えて、8月に河合さんが参加したニューヨークのイベントの話から、お互いの近況に情報交換など、久しぶりにゆっくり話をすることができた。
最後に、ここを訪れた記念に何か買おうと、改めて店内を見てみる。店のオープンにあわせて作ったというカーゴパンツが気になり、試着させてもらった。最初に試着したサイズは、ちょうどよかったけれど、ウエストがぴったり過ぎて、今後のことを考えると若干不安になる。そこでワンサイズ大きい方を試着。今度はウエストに若干の余裕があるけれど、足回りのシルエットは小さい方がいい。ちょっと悩んだけれど、太るの見越して腰回りに余裕がある方を買うという考えはよくない気がしてきた。自分を甘やかすのはやめて小さい方を購入した(と言いながら、スタバでケーキを食べながらこのブログを書いている)。
そんなこんなですっかり長居をしてしまい、予定の時間をオーバーしてT.S.L STORE & LABを出ると足早に倉敷駅まで戻り、青山と共に京都に向かった(本当は2年ぶりの倉敷でいろいろ巡りたかったんだけど)。トラベラーズファクトリー京都に着いたのは、閉店少し前でギリギリセーフ。翌日のアイトールさんのイベントの確認をして店を出た。
ファクトリーを出ると、人通りの少ない京都らしい趣のある裏路地を歩いて、ホテルへ向かった。夜の少しひんやりした風が気持ち良い。昼間は脱いでいた長袖のシャツをバッグから出して羽織った。ついこの間までは30度を超える日が続いていたようだけど、京都にもやっと秋が来たようだ。京都は11月になると紅葉シーズンを迎え、観光客が多くなる。秋が年々短くなる中で、紅葉前の静かな京都の秋は貴重な時間なのかもしれない。
途中、餃子屋で夕食を取る。ちなみに京都は宇都宮や浜松と並んで餃子消費量が多い町として知られている。焼き餃子、揚げ餃子、水餃子とともにレモンサワーを頼むと、出されたグラスにはなぜか「田中邦衛」と黒い文字でプリントされている。「北の国から」好きの僕はちょっと嬉しい。ちなみに青山のグラスには「吉澤ひとみ」とプリント。いちおう男と女でちゃんと分けているようだ。つい気になって隣のテーブルに座るおじさんのグラスを覗いてみると「織田裕二」とある。僕に「織田裕二」ではなく「田中邦衛」のグラスを出してくれたことに、何らかの意味があるのかと思ったりもしたけれど、このあたりのセンスがなんかもう京都っぽいなあと思った。
お腹を満たすと、再び夜の京都を歩いてホテルに向かう。ほろ酔い気分に秋の涼しい風が気持ちいい。何気ないひと時だけど、旅の幸せを感じる瞬間だ。ホテルに着くと、なぜかフリーで用意されていたヤクルトを一本飲んで、部屋に入った。
翌日のアイトールさんのイベントのことも書こうと思っていたんだけど、余計なことをいろいろ書いたせいで長くなってしまったので、後日報告することにします。