2025年2月 3日

カフェイベントでのこと

 先週末は、アアルトコーヒーの庄野さんに来てもらってカフェイベントを開催した。このイベントは、普段販売しているトラベラーズブレンドの作り手に実際に会ってもらうことで、その魅力をもっとお客さんに知ってもらいたいと考えて始めたイベントだった。

 同時に、僕らとしては、トラベラーズファクトリーができることで、ずっと妄想していたトラベラーズカフェをリアルに体験したいという、要はリアルカフェごっこのようなことをしてみたいな気分もあった(トラベラーズファクトリー自体が、お店屋ごっこの延長ではじまったようなところもあるんだけど)。だけど、コーヒーのプロである庄野さんが来てもらうことで、きちんとお客さんに楽しんでもらえるものになるとも思った。

 そして、もうひとつの動機は(これが一番大きいかもしれないけど)、イベントを口実に庄野さんと会って、話したり、飲んだりする機会を作りたかったということもあった。なのでコーヒーイベントは、打ち上げが終わるまでがイベントだった。ここ数年、庄野さんの本を出版している一人出版社、mille booksの藤原さんが打ち上げに来てくれて、おいしい鍋を作ってくれて、そのレベルもかなり高まっている。

 トラベラーズファクトリーでのカフェイベントはもう20回以上は開催しているはずなのに、相変わらず僕はいっぺんに2組以上のお客さんが来ると、あっぷあっぷしてしまうし、オーダーを覚えられずにコーヒーを出す順番を間違ってしまったりする。それでもお客さんの優しさのおかげもあって、いつもイベントは温かな雰囲気に包まれている。

 コーヒーの香りに満ちた空間で、お客さんがトラベラーズノートに何かを書き込みながら、おいしそうにコーヒーを飲んでいる姿を眺めるのは楽しいし、「おいしかったです!」なんて言われると、僕が淹れている訳でもないのに、得意げに「ですよね」なんて返してしまう。

 そういえば今回は、11月にロサンゼルスで開催したイベントに参加してくれた方が、立ち寄ってくれた。オーダーを受けると、ふと思い出したように「あなた、ロサンゼルスのイベントにいたよね。私もあそこにいたのよ」と言いながら、スマートフォンで会場で撮影した写真を見せてくれた。さらに「本当は一緒にイベントに参加した友達もここに来る予定だったんだけど……」と言った。

 彼女によると、その友人は先日のロサンゼルスの大火事で、住む家も車も全焼してしまったとのことで、今度は焼け落ちた家の写真を見せてくれた。さらに、「持っていたトラベラーズノートも全部焼けちゃったから、今日は彼女のためのトラベラーズノートを買うために来たのよ」と言って手提げ袋の中身を見せてくれた。僕は、あらためて火事の被害の大きさを実感した。

 ロサンゼルスの会場には、ほんとうにたくさんの方がイベントに来てくれたんだけど、そこにいた方が被害を受けていることを知って、テレビの画面を通じたニュースとして知っていたあの火災が、より実感を伴う身近な出来事だと思えた。

 他にも昨年のコラボレーションイベントでお世話になった方と久しぶりに話ができたり、お客さんの素敵なノートを見せてもらったりして意義深い時間を過ごすことができた。この場を訪れてくれた方とゆっくり話ができるのも、カフェイベントならではの楽しみである。

 夕方になると、mille booksの藤原さんが、2日前から仕込んでいた出汁に、おでん種、シャケ、タラなどの具材を抱えてファクトリーにやってきた。そして、それらを冷蔵庫に入れると、「他にも買い出しがあるんで」と忙しそうに店を出て行った。

 外が暗くなるにつれて、2階はお客さんも少なくなる。そんな時間は、事務所に入って、14gのお菓子を食べながら、庄野さんとお互いの近況や昨今の世の中のことなどを話した。ひねくれているのに筋が通って、ロマンチックなのに現実主義、勤勉で生真面目なのにパンクスピリットを持つ庄野さんとの話は、共感する部分が多くて楽しい。

 イベントが終わると、早々と片付けをして、そのままトラベラーズファクトリーの2階で今度は、打ち上げの準備をする。土鍋を出して、まずはおでんを煮る。大根と玉子はすでに藤原さんが家で煮込んでくれているから、あとは練り物にしらたき、揚げ豆腐などを入れたらすぐに出来上がる。続いて藤原さんは、タラ鍋、シャケ鍋、そして雑炊に、デザートの葛切りまでの鍋フルコースを振る舞ってくれた。みんなでお腹いっぱいになるまで舌鼓を打ち、恒例のカフェイベントの1日は終わった。

 ファクトリーでは、これからも新しいイベントやコラボレーションをチャレンジしていきたいけど、いつもと変わらない、おいしいものや素敵なものがあるイベントを、いつものメンバーと一緒に長く続けていくこともトラベラーズにとって大切だと思っている。